上肢の痺れ

 

上肢の痺れ                         研究部 中村常生

 

患者 46歳 女性

 

初診 平成29119

 

望診 身長 160cm 65kg 。よく肥えている。顔色やや浅黒く、健康的に日焼けしている。肌理は細かい。

 

聞診 快活にしゃべる。 呻くような声の出し方でした。たまに、咳をされてました。

 

 体臭は、あまりよくわかりませんでした。 

 

問診

 

2週間前より、右上肢が痺れ、他の整骨院や病院を受診する。先週より、箸でつまんだものまで落とすほど悪化するようになり、職場近くの当院に通院することを決める。

 

どこが一番痺れが辛いのか尋ねると、大・小円筋停止部(臑兪穴)あたりを押さえ、そのあと痺れる場所をさすってもらうと、右手の橈骨神経に沿って 上腕から前腕部 第2指の先まででありました。首を右に側屈するだけで、右上肢に痺れが、走るそうです。徒手検査では、ライトテスト陽性で、頚椎の配列も湾曲なくストレ-トネックでした。

 

病院CTでの異常は、とくになかったそうです。MRIまでは、検査していないそうです。

 

仕事は、病院の職員向けの保育所で働く、この道25年のベテラン保育士さんです。

 

子供の頃 扁桃腺を よく腫らしたそうです。

 

 

 

切診 

 

脉診 

 

脉状診 浮・数・虚

 

脉差診 左手尺中 腎の脉 浮いてひろがり最も虚。右手寸口 肺の脉 脉位になく 沈み虚。右手関上 脾の脉 やや浮き荒々しい脉。他は平と診ました。

 

腹診 腹部全体では 大腹が 小腹に比べ虚しているようにもみえましたが、肥えて大きなお腹なのでわかりにくいものでした。経絡腹診では、腎の診所 圧するとややへこみ、皮膚表面に生気なく虚と診ました。肺の診所 ややへこみ 虚と診ました。脾の診所 圧しても あまり指腹が入っていかず、皮膚・肌肉とも充実しているように診え、実と診ました。

 

病症の経絡的弁別

 

顔色やや浅黒 呻くような声の出し方 は、腎水の変動。 

 

たまに咳 子供の頃 扁桃腺 は 、肺金の変動 

 

と診ました。

 

証決定

 

脉証 腹証 病症を総合判断の結果 腎虚証と決定しました。

 

適応側の判定 女性であること 臍の形状 耳前動脈から右としました。

 

治療方針と予後の判定 

 

経絡を整え、首から肩甲骨周りの上肢帯筋肉群を緩め 経気の疎通をはかるならば、予後良と診ました。

 

治療

 

1回目 

 

本治法 銀12番鍼にて 右復溜穴に補法を行う。気が丹田に降りてきたあたりで 催気をはじめ 押手や刺手の手のひらに温かみを感じ 充足感を得たあたりで、去ること弦絶の如く抜鍼する。浮いてひろがっていた腎の脉が沈み 本来の位置に落ち着く。右経渠穴を補う。虚していた脉位が、浮いて浮脉となる。

 

お腹が、更にふっくらとおおきく膨らみ脉に締まりと伸びがでたので、陰経を終了し 陽経の処理に移る。

 

胆・胃・大腸経に虚性の邪が感じられましたので、左光明穴 左豊隆穴 右温溜穴 に枯に応じる補中の瀉法を施す。脉状に艶と伸びが増す。本治法を終了します。

 

標治法 

 

奇経腹診により反応があった

 

右列穴穴に、金(メッキ)鍼 左照海穴に ステンレス鍼15分間留置

 

ナソ部を銅の鍉鍼とざん鍼で処理し、

 

ムノ部を左右数箇所 ステンレス鍼にて補う。

 

手の外三里穴をステンレス鍼で、気を流し

 

右腋門穴・右後渓穴(経筋治療の手の少陽・太陽経の火穴・土穴)を(金のてい鍼がないので代わりに)銅のてい鍼で補う。

 

円鍼で、胃経・大腸経・小腸経を軽擦する。

 

顔の膀胱経の始まり晴明穴を暖めた円鍼で、経に従い 軽擦し てい鍼のとがった方で補い 仰臥位で頚椎を牽引し 前湾のカ-ブを戻す。

 

脉状の乱れの無いことも確認し

 

1回目の施術を終了する。

 

(ライトテスト術後 陰性に 転じる。)

 

 

 

2回目 1111

 

1回目の 施術のあと、痺れが、弱くなり、調子にのって、子供と遊んだり、抱いたりしたので、また少し痺れがきつくなる。右肩関節運動時 クリック音を生じる。

 

腎虚証で、前回同様に施術する。

 

右肩関節の関節腔を拡げながら運動することで、クリック音が 軽減することを理解してもらい 上肢帯筋肉群を緩めることの必要性を実感してもらう。

 

以後 証は、腎虚証で、奇経が、日により異なりました。

 

3回目 1113

 

奇経 照海-列穴

 

4回目 1115

 

奇経 臨泣-外関

 

痺れ 指の第2指あたりにうっすら残る程度となり、

 

もう一息で 良くなる予想が持てました。

 

初検時に比べれば、雲泥の差で、患者さん本人は、大変喜んでいました。

 

5回目 1117

 

奇経 列穴ー照海 臨泣

 

脉状は、うすらぼけている。

 

だるく抜ける感じが、右肘周辺に下りてきている。首を側屈すると、首から臑兪穴あたりまで、痛みが走る。(最初は、指先まで走っていたので、範囲縮小する。)

 

6回目 1121

 

奇経 陥谷-合谷 公孫

 

右肘痺れ痛みは、夜9時以降ひどくなり、眠れないときがある。子牛でいうと、三焦の時間帯のため、脾を補う反応点と診、同じく公孫穴を 金30番で補う

 

7回目 1124

 

奇経 照海-列穴 臨泣

 

朝 右肘 大腸経に沿って痛むため、子牛にあたる腎経の 照海穴を金30番で補う

 

8回目 1130

 

奇経 列穴

 

右肘部の痺れ ほっとした時間に少しだけとなる。

 

脉状 艶と潤いが出て、中脉がしっかりする。

 

一応の治癒とみなす。

 

 以後週1の施術で、2回ほど通われ 痺れ完全に消失し、首を側屈させても痛み痺れともに発生しなくなる。

 

 

 

 

 

考察

 

骨格や姿勢 筋肉の使い具合で、圧迫している神経や血管を緩めるのは、経絡治療の本治法から標治法まで、鍼1本ずつ 少しずつ緩ませていくことが、ゆっくりだけど早道だなとあらためて思える症例でした。奇経反応穴と子牛で使う経穴が、マッチングしてたところが、臨床的に 面白かったです。最終的には、 ストレ-トネックは解消され、頚椎前湾位を取り戻されました。このような優秀な成績をおさめられたのも 偉大な経絡治療を学ばせていただいたお陰だと感謝しております。今後とも ご指導ご鞭撻のほど よろしくお願いいたします。