喘息

 

喘息                         研究部 中村常生

 

患者 44歳 男性

 

初診 平成28926

 

望診 身長 168cm 68kg 。肌の色黒色。肌理はがさついている。メガネをかけ 眼が疲れているような様相。坊主頭で、一見して禅宗のお坊さんのようである。空手でもやっていそうな いかつい感じ。手三里穴と合谷穴に灸の痕あり。

 

聞診 意外と人懐っこい感じで よくしゃべる 音階は、ド 五声は、歌 五音は宮音と診ました。

 

 体臭は、よくわかりませんでした。

 

問診

 

ここ最近 寝入りばなや明け方に、呼吸困難で起き上がらなければ苦しくなる起座呼吸で眼が覚める。子供の頃、小児喘息で苦しんだが、西洋医学では 一向によくならず、近所の鍼灸院で、一発でよくなった経験がある。今回は、職場の上司が、当院の常連さんで 紹介されて来院。その紹介者が空手をやっておられたので、一緒にやっているのか尋ねたところ、空手はしていないが、運動して痩せなきゃいけないと感じているらしく、雨降り以外は、片道11キロの道程を自転車で通勤しているそうです。最近 年齢のせいか週末はくたびれるそうです。

 

アレルゲンは、何かあるのか尋ねてみるとハウスダストがあるそうで、昨日 布団を捨てたそうです。

 

逆流性食道炎を持病でもっているそうで、夜中に、ドカ食いをしないように心がけているそうです。独り身なので、どうも 回数を減らして 一気にまとめ食いをしてしまう傾向があるそうです。

 

仕事は、家電製品の修理で ガスバ-ナ-を使ったりするそうです。肩こりは、慢性化しているそうですが、喘息発作がひどくなりだして ことさら凝るそうです。

 

本人曰く 年をとってきたので、早めに治療をしておこうと思い 来院されました。

 

切診

 

 皮膚がざらつき、小腸経の通り 肩中兪・肩外兪・曲垣穴あたりの所謂 肩甲挙筋部張る。

 

脉診 

 

脉状診 浮・数・虚 

 

脉差診 右手関上 脾の脉 浮いてひろがり最も虚。 左手寸口 心の脉 脉位になく 沈み虚。左手関上 肝の脉 やや浮き荒々しい脉。他は平と診ました。

 

腹診 腹部全体では 大腹が 小腹に比べ虚しておりました。経絡腹診では、脾の診所 圧するとややへこみ、皮膚表面に生気なく虚と診ました。心の診所も同様に虚と診ました。肝の診所 圧しても あまり指腹が入っていかず、皮膚・肌肉とも充実しているように診え、実と診ました。

 

病症の経絡的弁別

 

ドカ食い傾向・長距離自転車通勤による週末疲労感 逆流性食道炎 は、脾土の変動。 

 

人懐っこくよくしゃべるは 、心火の変動 

 

ハウスダストアレルゲンは、 肝木の変動

 

皮膚ざらつきは、肺金の変動

 

と診ました。

 

証決定

 

脉証 腹証 病症を総合判断の結果 脾虚肝実証と決定しました。

 

適応側の判定  臍の形状 耳前動脈から右としました。

 

治療方針と予後の判定 

 

経絡を整え、体質を改善するならば予後良と診

 

症状が、軽快するまでは 週2回程度通院するように指導し、おさまれば,週1 月1とあけていくよう指導しました。

 

治療

 

1回目 

 

本治法 銀12番鍼にて 右太白穴に補法を行う。気が丹田に降りてきたあたりで 催気をはじめる。 押手や刺手の手のひらに温かみを感じ 充足感を得たあたりで、去ること弦絶の如く抜鍼する。浮いてひろがっていた脾の脉が締まる。右大陵穴を補う。虚していた脉位が、勢いある洪脉となる。

 

左手関上肝の脉、指に突く邪が感じられ 左太衝穴を経に逆らって触ると良い脉になったので 枯に応じる補中の瀉法を行う。

 

お腹もふっくら膨らみ陰経を終了 陽経の処理に移る。

 

胆・胃・大腸経に虚性の邪が感じられましたので、左光明穴 左豊隆穴 右温溜穴 に枯に応じる補中の瀉法を施す。脉状に艶と伸びが増す。本治法を終了します。

 

標治法 

 

ナソ部を銅の鍉鍼とざん鍼で処理し、

 

ムノ部を左右数箇所 ステンレス鍼にて補う。

 

腰背部

 

一番膨れている箇所に 補鍼をし

 

左右差を診て 補的散鍼 瀉的散鍼をする。

 

奇経腹診により反応があった

 

左通里穴・左後谿穴に、金(メッキ)15分間留置

 

同時に、定喘穴 風池穴 風門穴 風府穴 にステンレス鍼置鍼

 

脉状の乱れの無いことも確認し

 

1回目の施術を終了する。

 

 

 

2回目 929

 

症状に変化なし。

 

脉状 輪郭が、少しハッキリする。証は、脾虚肝実証で 施術。

 

今回は、逆流性食道炎を考慮し、胃の六つ灸を棒灸で追加。

 

鍼灸重宝記を参考に、中府・雲門・華蓋穴にも棒灸 中脘穴に補鍼追加する。

 

3回目10月3日

 

脉状 丸みをおび、さらに輪郭がはっきりしてきている。

 

喘息の程度は、少しましになってきている。

 

小里先生の『私の治療室から』をよく読んだせいか

 

今回 証が腎脾相克に診え (取穴・検脉最も良く) 胃経を補中の瀉で処理

 

他 前回同様

 

4回目 105

 

脉状 中脉の流れがよくなってきて力強さ増す。

 

肌がつるっと艶っぽくなる。喘息だんだんましになる。

 

右脾虚証で施術し、

 

標治法に

 

温灸天府穴を加える。他は、同様に施術。

 

以後 来院されておりません。

 

考察

 

今回 喘息患者さんの依頼を受け、経絡治療の本治法と定喘穴でもやっておけば良くなるだろうと高をくくっておりましたが、最初 成果がでず、鍼灸重宝記や小里先生の『私の治療室から』を読み返しました。

 

そのことが、かえって臨床に生かせて良かったと思っています。

 

また、東洋はり関西のまぐろ計画-アレルギ-専門鍼灸師養成講義での牧先生や神開先生や古野先生・宮脇先生のお話は、大変勉強になりました。

 

あらためて よい会で勉強させていただいていることに感謝しております。

 

継続して、体質改善に来ていただける治療所にしていくことが 今後の課題と反省しております。今後とも ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。