黄色靭帯骨化症

 

黄色靭帯骨化症                         研究部 中村常生

 

患者 71歳 女性

 

初診 平成27926

 

望診 身長 166cm 60kg 。肌の色白色やや黄色味がかっている。肌理は細かい。歩行困難のため、小さなアタッシュケ-スを手押し車がわりにして来院。やや前屈気味で、体が伸びない。

 

聞診 おしゃべり好きでよくしゃべる 音階は、ド 五声は、歌 五音は宮音と診ました。

 

 体臭は、あまり感じられませんでしたが、どちらかというと、ほのかに香り臭しという感じでした。 

 

問診 一週間前 かなり重量のある電動アシスト付自転車を押して坂道を上ったあとから腰痛が悪化する。厳密には、胸椎1112番周辺。本来なら、当院に来院する予定が、二週続けて 休診しなければならない用事があり、間に シルバ-ウィ-クがあったものですから、5年前に受診した大学病院に行かれたそうです。大学病院に行かれて、手術するには、部位が難しい場所なので、別の同じ系列の大学病院を紹介されたそうです。骨化の程度うんぬんで 胃腸症状がでるそうなのですが、失敗するリスクもあり、歩行障害になっては困ると 手術をするべきかどうか悩んでおられました。腰を痛めた頃から 食欲がなくなり、それ以降 旦那さんが、毎日おかゆを作ってくれているそうでした。

 

ご主人や子供さんたちが、パソコンに明るい家庭環境にあり、ご主人が大のトラキチのせいで 元阪神の監督さんだった星野仙一さんが、同じ病気であることとか、手術してよくなかった症例報告をインタ-ネット上で 検索しては 余計に悩まれているようでした。

 

昔 C型肝炎に、罹患されたそうですが、現在は、数値がよいので、服薬等は、されてないそうです。

 

切診

 

 足が冷え とても寒がりの方のようです。

 

脉診 

 

脉状診 浮・数・虚 

 

脉差診 右手関上 脾の脉 浮いてひろがり最も虚。 指腹に突き上げてくる邪あり。左手寸口 心の脉 脉位になく 沈み虚。左手関上 肝の脉もやや浮き荒々しい脉。他は平と診ました。

 

腹診 腹部全体では 大腹が 小腹に比べ虚しておりました。経絡腹診では、脾の診所 圧するとややへこみ、皮膚表面に生気なく虚と診ました。心の診所も同様に虚と診ました。肝の診所 圧しても あまり指腹が入っていかず、皮膚・肌肉とも充実しているように診え、実と診ました。

 

病症の経絡的弁別

 

肌の色の黄色味  食欲がない あれこれ悩む 胸椎1112番周辺の痛み は、脾土の変動。 

 

よくしゃべる 、心火の変動 

 

C型肝炎は、 肝木の変動

 

腰そらせられない  手術へのおそれ 足の冷え寒がりは、腎水の変動

 

と診ました。

 

証決定

 

脉証 腹証 病症を総合判断の結果 脾虚証と決定しました。

 

適応側の判定 女性であること 臍の形状 耳前動脈から右としました。

 

治療方針と予後の判定 

 

症状は、アタッシュケ-スをベッドサイドまで、ひいて歩行しなければならないほど きつい痛みのようでしたが、半年前に、業務用ス-パ-が開店した時に、コマの動きが悪いカ-トにあたり それを押した後にも 程度の差こそはあれ、(今回よりも軽くはありましたが、)似たような発症機転で来院され 数日で治癒された経緯がありましたので、

 

経絡の変動をとらえ調整するならば、予後良と診ました。

 

治療

 

1回目 

 

本治法 銀12番鍼にて 右太白穴に補法を行う。草原をイメ-ジし、気が丹田に降りてきたあたりで 催気をはじめる。 押手や刺手の手のひらに温かみを感じ 充足感を得たあたりで、去ること弦絶の如く抜鍼する。浮いてひろがっていた脾の脉が締まる。右大陵穴を補う。虚していた脉位が、勢いある洪脉となる。お腹もふっくら膨らみ陰経を終了 陽経の処理に移る。

 

胆・胃・大腸経に虚性の邪が感じられましたので、左光明穴 左豊隆穴 右温溜穴 に枯に応じる補中の瀉法を施す。脉状に艶と伸びが増す。本治法を終了します。

 

標治法 

 

ナソ部を銅の鍉鍼とざん鍼で処理し、

 

ムノ部を左右数箇所 ステンレス鍼にて補う。

 

腰背部

 

一番膨れている箇所に 補鍼をし

 

左右差を診て 補的散鍼 瀉的散鍼をする。

 

奇経腹診により反応があった

 

左陰矯脉 照海穴・右陽明 陥谷穴に、金(メッキ)15分間留置

 

腰眼穴(腸骨陵と仙骨の境目あたり)を 斜めに滑り込ませるように刺鍼し 四呼吸半後 軽く捻り 抜鍼

 

下腿部に、散鍼を加え、全体に緩んだことを確認し

 

脉状の乱れの無いことも確認し

 

1回目の施術を終了する。

 

 

 

2回目 928

 

普通に、歩いて来院される。挙動が、あまりに スム-ズなので、腰背部の痛みについて 尋ねると もう痛くないそうです。

 

脉を診てみると、輪郭がはっきりとした脉にかわってきていました。

 

胃の不快感残存し、

 

証は、脾虚証で施術し、

 

奇経は、

 

左通里穴に金(メッキ)鍼

 

右陥谷に金(メッキ)鍼・右合谷穴に、ステンレス鍼を15分間留置

 

他は、同様に施術しました。

 

8回目 105

 

胃の不快感消失。普通食に戻る。

 

 今まで、体を動かしても 汗をかかなかったのに、体質が変わったことに驚いておられました。薬をやめて 鍼だけの治療で よくなったことにも喜んでおられました。脉状は、輪郭がはっきりしたことに加え、弾力とやわらかみのある脉に変化し、中脉に流れがでてきました。

 

一応の治癒とみなし、以後健康管理のため来院されるようになりました。

 

考察

 

 タイミングが悪く、大学病院に先に行かれ 病気の怖さを植え付けられ 手術をするべきかどうか ひどく悩まれたことが、脾虚をさらにひどくしたのでしょう。

 

 そのおかげで、いつも以上に熱心に精勤に通院されたたことが、体を動かして汗をかくほど 熱量が発生するからだに変化し、結果としては 体質改善に役ったのだと思います。

 

 経絡治療を続けると、体質が変わるということを 患者さんの身をもって体験できたこと とてもうれしく思いました。

 

これもひとえに、ご指導していただいた先生方や ともに研究してくださる先生方のお陰だと感謝しております。今後とも よろしくお願いいたします。