過敏性腸症候群 研究部 中村常生
患者 40歳 女性
初診 令和元年8月27日
望診 身長 158cm 体重60kg 。肌の色白色やや黄色味がかっている。肌理は細かい。腹部の皮膚が荒れ、アトピ-性皮膚炎あり。
聞診 いつもは、低い声で、大人しくしゃべるタイプであるが、今回は、感情的になり涙声で訴えかけるように話す。 音階は、ド 五声は、歌に呼がまじる。 五音は宮音に、角音が混じると診ました。
体臭は、あまり感じられませんでしたが、どちらかというと、ほのかに香り臭しという感じでした。
問診 一ヶ月前から、お腹が痛くなり、下痢を繰り返し、仕事中に、パニックになってしまい、泣き出してしまったそうです。行き着けの内科で、過敏性腸症候群と診断され、「心の問題やからあまり気にしないように」とドクタ-に指導され、安心したそうです。
しゃべりながら涙目になり、感情の起伏が激しいことが伺われました。夜は、よく眠れず、怒りやすくなったそうです。
切診
全体的には、湿っぽい皮膚なのですが、お腹のアトピ-部分は、カサカサと赤くなっていました。
脉診
脉状診 浮・数・虚
脉差診 右手関上 脾の脉 浮いてひろがり最も虚。 指腹に突き上げてくる邪あり。左手寸口 心の脉 脉位になく 沈み虚。左手関上 肝の脉もやや浮き荒々しい脉。他は平と診ました。
腹診 腹部全体では 大腹が 小腹に比べ虚しておりました。経絡腹診では、脾の診所 圧するとややへこみ、皮膚表面に生気なく虚と診ました。心の診所も同様に虚と診ました。肝の診所 圧しても あまり指腹が入っていかず、皮膚・肌肉とも充実しているように診え、実と診ました。
病症の経絡的弁別
肌の色の黄色味 お腹が痛くなり、下痢を繰り返す は、脾土の変動。 仕事中に、パニックになってしまい、泣き出してしまった 感情の起伏が激しい 夜は、よく眠れず、怒りやすくなった は、肝木の変動
お腹のアトピ-は、肺金の変動
と診ました。
証決定
脉証 腹証 病症を総合判断の結果 脾虚肝実証と決定しました。
適応側の判定 女性であること 臍の形状 耳前動脈から右としました。
治療方針と予後の判定
心身症の類(自律神経疾患)は、気を調整する経絡治療にとっては、得意分野であるので、回数(頻度)をつめて、体質改善・自然治癒力をたかめれば、
予後良と診ました。週に、2~3回の頻度で来院するように指導する。以前に、頭痛と肩の挙上制限がある期間は、そのペ-スで来院し、治癒した経緯があるので、快く承諾していただく。
治療
1回目
本治法 銀1寸2番鍼にて 右太白穴に補法を行う。草原をイメ-ジし、気が丹田に降りてきたあたりで 催気をはじめる。 押手や刺手の手のひらに温かみを感じ 充足感を得たあたりで、去ること弦絶の如く抜鍼する。浮いてひろがっていた脾の脉が締まる。右大陵穴を補う。虚していた脉位が、勢いある洪脉となる。左太衝穴に、補中の瀉法を施す。お腹もふっくら膨らみ陰経を終了 陽経の処理に移る。
胆・胃・大腸・三焦経に虚性の邪が感じられましたので、左光明穴 左豊隆穴 右温溜穴 右外関穴 に枯に応じる補中の瀉法を施す。脉状に艶と伸びが増す。本治法を終了します。
標治法
ナソ部を銅の鍉鍼とざん鍼で処理し、
ムノ部を左右数箇所 ステンレス鍼にて補う。
腰背部
一番膨れている箇所に 補鍼をし
左右差を診て 補的散鍼 瀉的散鍼をする。
奇経腹診により反応があった
左陰矯脉 照海穴に、金(メッキ)鍼15分間留置
他
右三陰交穴
精神安定のため、身柱穴・百会穴・右肝兪穴 安眠のため、完骨穴
アトピ-性皮膚炎に右蠡溝穴、左前肩髃穴にも
ステンレス鍼15分間置鍼
1回目の施術を終了する。
2回目 8月30日
肝木の荒々しさがましになる。
以後脾虚証に変更。施術後、9月1日は、調子がよかったが、9月2日に、仕事中お腹が痛くなり、パニックに陥り、感情崩壊し、泣いてしまう。上司になぐさめられ、気にせずトイレに行くよううながされる。
3回目9月3日
奇経に、右陥谷穴に金(メッキ)鍼、右合谷穴にステンレス鍼 15分間置鍼する。
脉状に輪郭がでてくる。
お腹のアトピ-少しましになる。
4回目9月4日
トイレに仕事中、気にせず何回もいくようになる。よく眠れるようになる。アトピ-ましになる。
奇経反応から、左照海穴 左臨泣穴に金(メッキ)鍼15分間置鍼する。
5回目9月6日
朝の朝礼に緊張し、お腹が痛くなりパニックとなる。
肝木の邪が、気になり
初回同様
右脾虚肝実証で、施術(奇経は左照海穴を取る。)
脉状に、中脉に幅と流れが増す。
治療翌日土曜日9月7日 昼食事中でも気にせずトイレにいけるようになる。
月曜日9月9日には、お腹の調子がよくなり、仕事に集中できるようになる。
6回目9月10日
術前でも
脉状に、輪郭が出て、中脉に幅と流れがある。
お腹痛くならなくなる。良く眠れ、怒らなくなる。お腹のアトピ-消え、肌艶よくなる。
翌日朝礼があり、人前で話をしなければなりません。いつもならプレッシャ-で、情緒不安定になるところが、その緊張感を楽しむような心持に変化する。周りの同僚に「気にしないで」といわれたことがとても心に沁みたそうです。(上司の言葉は、全然心に刺さらなかったそうですが・・・)
一応の治癒とみなす。
考察
1ヶ月ほど、内科にいっても治らず悶々とすごしていたが、2週間6回の鍼施術で完治したので、もっとはやく先生に相談したらよかったと言われました。整形外科的な肩や腰の痛みに鍼が効くことは、知っていても自律神経調整が必要な内科疾患に鍼が効くことを知らない人は、周りに多いことを感じました。
気を調整する経絡治療なら尚更得意分野なのだということを、強調し説得できたことを嬉しく思います。
これもひとえに、ご指導していただいた先生方や ともに研究してくださる先生方のお陰だと感謝しております。今後とも よろしくお願いいたします。